東京医療保健大学
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ヘルスケアコラム

病院給食(入院時食事療養)のお話

医療保健学部 医療栄養学科
森本 修三
給食とは、特定多数の人に組織的、継続的に食事を提供することであり、栄養管理が必要なものとして厚生労働省令で定める1回100食以上あるいは1日250食以上の食事を提供する施設を特定給食施設と呼びます。具体的には、一定規模以上の学校、社員食堂、福祉施設、病院などが特定給食施設で、自衛隊、刑務所もそうです。給食の目的は、成長発育を含む健康の保持増進、栄養教育が連なる食生活改善などですが、制度上の位置付けとしては、教育、福利厚生、福祉、自立支援などとなります。
 
さて、その中の病院給食。これは医療の一環として位置付けられ、「入院時食事療養」として運営されています。その実施は、診断を基にした医師の指示により、管理栄養士が患者の年齢、性、体格、身体活動量、栄養状態および病状や病期等々に合わせて個別に栄養管理計画をたて、アレルギーや嗜好なども考慮した食事を提供するというものです。もちろん、患者を常に観察し、必要な変更等を加え、とくに栄養状態が不良な患者には栄養サポートチームでその治療にあたるなどします。ベッドサイドでの栄養食事指導も並行して行い、食事介助は看護師や他の病棟スタッフが専門の立場で行います。このように病院の食事は、家庭はもちろん、学校や社員食堂などの食事とは明らかに異なります。
 
その入院時食事療養費の患者自己負担額が、今春に成立した改正医療保健関連法では段階的に引き上げられます。もともと病院給食は診察、薬剤、手術などと同様の取扱いでしたが、1994年に療養の給付から外れ、入院時食事療養費の患者一部自己負担が導入されました。その額は現在1食につき260円なのが、2016年からは360円、2018年からは460円になります。わが国の医療費は年々膨張し、厚生労働省がまとめた2014年度の総額は40兆円とのこと。厳しい保険財政(厳しいか否かは考え方次第)を考えると一定の患者自己負担はやむをえないとも言えますが、ただ際限なく引き上げると、病院給食が医療の一環、病気治療の手段であるという解釈はしにくくなります。繰り返しますが、病院給食は治療の性格が強く、一例をあげれば、胃瘻から…、半固形食で…、免疫賦活経腸栄養剤を使って…などによる栄養管理というケースが少なからずあり、これらに対しても、家に居たって食事は食べるのだから…、入院患者の食事は生活コストでしょ…、という論法は無理があると思われます。自己負担増について厚生労働省は、在宅医療との公平を確保することをその大きな理由としていますが、在宅患者との公平を言うなら、現状ではまったく不十分な在宅での栄養管理指導をもっと進めることが必要と思えます。
 
国家運営において「医療」は重要な事項です。医療制度を維持(変化等々を含む)することは一種の経営ですから、国民相互扶助という国民皆保険の精神をどこまで貫くのがよいか簡単には答を出せません。ただ、やはり病人は社会的弱者であることを十分に考慮すべきでしょう。個人的には、誰もが食べる食事なのだから自己負担は当然という考えを入れ込み過ぎたら、さらに医療の諸事項全般にこのような考えを入れ込んでいったら、もう日本の医療保険制度の理念を根本から変えるしかないのではと思います。たかが「病院給食(入院時食事療養)のお話」ではありますが、大きく捉えれば、わが国の医療はどういう方向に向かうのがよいかということになります。皆さんはあれこれ、どうお考えになりますか? 
 
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