東京医療保健大学
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ヘルスケアコラム

立場が変われば見方も変わる障がいって?

医療保健学部 医療情報学科
山下 和彦

平成27年版高齢社会白書によると2014年の日本の65歳以上の人口である高齢化率は26%を超えました.年を取ると増えてくる身体的な課題として,“認知症”,“変形性膝関節症などの整形外科的疾患”,“糖尿病や高血圧などの生活習慣病”などが挙げられます.この中でも認知症は462万人,予備群も400万人に達すると考えられます(2012年厚生労働省報告).認知症は加齢が強く影響しますので,2025年には認知症者が700万人,予備群を含めると1200万人を超えると予測されます.日本の人口の1割近い人数が認知症かそれに近い症状を持つことになります.
 

一方,身体の障がいという観点から考えてみましょう.目が見えない,耳が聞こえない,手や足がない状態の人を障がい者と呼ぶことがあります.手がないことは障がいなのでしょうか?当事者に聞いてみると「手がないことで困ったことがない」と言います.手がなくても車の運転はできるし,生活の中で不自由を感じたことがないそうです.車の運転は,補助具があれば片手でも足でも運転ができます.つまり障がいとは環境とのミスマッチ,不整合から生じるものであり,環境が整っていれば身体に不自由があっても何の問題もないことがわかります.“障がい者”とは“健常者”という人が考えた概念だと言えます.
 

近年,4色型色覚が発見されました.多くの人は3色覚であるため,赤(R),緑(G),青(B)の3色を眼の網膜細胞が知覚し,色を識別しています.4色覚の人はこれに黄色(Y)を知覚できるため,3色覚の人よりも多くの情報が認識できます.4色覚よりも3色覚の方が活用できる情報が少ないとすると,3色覚に該当する人は“障がい者”であると言えます.しかし,3色覚の人は何か困っていますか?障がいは感じていないと思います.つまり環境に整合しているからです.
 

認知症は記憶や行動に変化を伴う病気,あるいは障がいです.認知症には多くの種類があり,複数の病態をあわせもつことが明らかにされています.認知症であっても百人一首をすべて読み上げられたり,すごい裁縫の腕前だったり,車の運転もできますし,いつもニコニコ笑って周囲を気づかっている方もいます.しかし前頭側頭型認知症では,お金を払う概念があいまいになるため万引きしてしまったり,高速道路の出口がわからなくなり,逆走したりする問題行動を引き起こすことがあります.このように認知症という障がいが明らかになると何が求められるかが明確になってきます.
 

健康の分野からは認知症予防に運動がよいことが世界中で報告されつつあります.いくつかの種類の認知症の症状や問題行動を改善できる薬も明らかになってきました.次はこれらをどのように評価し,環境を整え,支援するかの“運用“が重要になります.日本は世界一の超高齢社会の国です.世界の多くの国が,日本の成果に注目し,よい点を取り入れ,悪い点を改善しようと考えています.今存在する,あるいはこれから発生する可能性の高い問題から目を背けて他人事と考えるのではなく,積極的に問題に取り組み,新しい知見を明らかにし,それを発信できる人が求められます.社会を変え,多くの幸せをクリエイトできる人材が必要です.

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