東京医療保健大学
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ヘルスケアコラム

プロテインの必要量や摂取タイミングの誤解

医療保健学部 医療栄養学科
御堂 直樹

最近、レジスタンストレーニング(いわゆるウェイトトレーニングまたは筋トレ)が流行っているようです。ジムに行くと、栄養補助食品のプロテイン(日本語でタンパク質のこと)を横に置き、レジスタンストレーニングをしている若い人をしばしば目にするようになりました。このような状況を見て、元ボディビルダーの私が危惧しているのは、誤った情報が広まっていることです。まずは誤解の多い点について結論をお伝えします。

①レジスタンストレーニング実施者が筋肉をつけるために必要なタンパク質は、約1.6 g/kg体重/日で十分。決して2~3 g/ kg体重/日ではない。
②プロテイン等のタンパク質を摂取するタイミングは、レジスタンストレーニング直後である必要はない。ゴールデンタイムと言われる時間帯の存在は怪しい。

それでは科学的な根拠について説明します。

 

①レジスタンストレーニング実施者のタンパク質の必要量
Morton RWらにより、既存の研究結果を網羅的に解析した、信頼性の高いシステマティックレビューが報告されています。それによると、レジスタンストレーニング実施者が1.62/kg体重/日を超えるタンパク質を摂取しても、筋肉はそれ以上増加しないことが分かりました1)。そのため、必要量は約1.6/kg体重/日と考えるのが妥当です。

一方、一般にレジスタンストレーニングを実施する時のタンパク質必要量は、2~3 g/kg体重/日と言われてきました。先の「1.6」を整数で四捨五入すれば「2」になりますが、切り上げ過ぎている気がします。最近では、サプリメントメーカーも根拠を重視しているのか、「3」という数値をあまり見かけなくなりました。この数値は海外のプロボディビルダーの経験値によるものであったと推測しています。彼らは、アナボリックステロイドや成長ホルモンといった筋肉増強剤を使用していることが多く、その場合の必要量が3 g/kg体重/日だったのでしょう。

令和元年の国民健康栄養調査2)を元に20歳以上を対象とし、1.6/kg体重/日と平均的なタンパク質摂取量との差を計算してみると、男女共に約0.4 kg体重/日でした。これを平均体重で換算すると、男性で約29 g/日、女性で約19 g/日になり、これをプロテインやタンパク質の豊富な主菜で補えばいいということになります。とはいえ、運動により増加したエネルギー量を補うために、食事バランスガイド3)に従った主食、副菜、主菜、牛乳・乳製品、果物からなるバランスのよい食事をとれば、自ずとタンパク質の量も増えることになります。そのため、各個人の食生活によっては、付加的なタンパク質は必要ない可能性があります。

必要以上にプロテイン等のタンパク質を摂取すると、筋肉ではなく体脂肪が増えますが、それが疑われる人をよく見かけます。運動強度や代謝の状態は各個人で異なるため、実際に必要なタンパク質の量も各個人で異なります。自身の身体の変化を客観的に見ることで、付加的なタンパク質の必要性を判断して頂ければと思います。

 

②レジスタンストレーニング実施者のプロテイン摂取のタイミング
Wirth Jらの研究4)により、若年者、高齢者に関係なく、レジスタンストレーニングの直前、直後、それとは関係のない時間帯のプロテインの摂取において、筋量や筋力の増加に差が見られないことが分かりました。また、筋肉中のタンパク質の合成速度は、レジスタンストレーニング直後のみ増加するのではなく、運動後24~48時間持続することが報告されています5)。つまり、レジスタンストレーニングの直後の摂取は重要ではなく、1日あたりの必要量が確保できるよう、食事由来のタンパク質も計算に入れ、プロテインを摂取すればよいということです。

それでは、なぜレジスタンストレーニング後の30分または1時間以内を、プロテインの摂取に最適なゴールデンタイムと呼ぶのでしょうか?多くのサプリメントメーカーが参考にしているのは、Esmarck Bらの研究結果6)です。確かにこの研究では、レジスタンストレーニング2時間後よりも直後にプロテインを摂取した方が、12週間後の筋量や筋力が増加しました。先のWirth Jらの研究4)はシステマティックレビューであり、より信頼性の高いものです。これに対し、Esmarck Bらの研究6)は、レジスタンストレーニング未経験の高齢者を対象とした単独の研究であり、限定された狭い条件でのみ、そのような結果が偶然得られた可能性があるのです。

 

私が現役でボディビルディング競技を行っていた頃は、レジスタンストレーニング後にプロテインをできるだけ早く、また必要量以上に摂取していました。当時から、この行動が正しいのか疑問に思っていたのですが、不安が先に立ち、なかなか変えることができませんでした。競技を退いた後、思い切ってプロテインの摂取を止めてみたのですが、少なくとも40歳後半まではそれなりに筋肉を維持できていたと思います。ボディビルディングは、他の競技に比べ、比較的ピーク年齢が高く、40歳代でも全国規模の大会で活躍している選手が多いのですが、私の筋肉の衰えもそれに近かったようです。

筋肉をつけるには、レジスタンストレーニングで限界まで追い込む、これが基本です。ジムにプロテインを持ち込むのではなく、まずは身体がタンパク質を必要とする状況、つまり筋肉が成長しようとする状況に達するまで、レジスタンストレーニングの強度を高めて頂ければと思います。その次が、このコラムで述べたプロテイン等のタンパク質の適切な摂取ですね。

1) Morton RW et al. Br J Sports Med 52, 376–384, 2018
2) 厚生労働省, 国民健康・栄養調査(令和元年)
 https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kenkou_eiyou_chousa.html
3) 農林水産省, 「食事バランスガイド」について
 https://www.maff.go.jp/j/balance_guide/
4) Wirth J et al., J Nutr, 150, 1443-1460, 2020
5) Phillips SM et al. Am J Physiol, 273 (1 Pt 1), E99-107, 1997
6) Esmarck B et al., J Physiol, 535, 301-311, 2001

教員データベース:御堂 直樹⇒

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