東京医療保健大学
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ヘルスケアコラム

思春期の「心の健康教育」の大切さ

医療保健学部 看護学科
渡會 睦子
「思春期の心」と聞くと、皆様は何を思い浮かべるでしょうか。
 
反抗期・親と話がしたくない、急にいらいらする、意地悪する、人の目が気になる、一人で悩む等、様々な複雑な思春期の心の反応を思い浮かべた方も多いのではないでしょうか。また、現代の思春期の自殺問題や性問題との関連を想像する方もいらっしゃると思います。
 
思春期は、小学3.4年生頃から体の二次性徴が始まることで知られていますが、心も同様に成長を始めます。文部科学省学習指導要領では、小学3-6年・中学生の保健体育において「心の健康教育」を実施するように大きく取り上げており、それに伴い教科書も「心の健康教育」が多くのページをしめています。大人が受けてきた保健体育のイメージとは、大きく異なることと思います。
 
思春期の心は、欲求の発達・脳の発達・二次性徴の発達(ホルモンの分泌)に伴い、様々な変化を起こします。小学3・4年生頃より、客観的に自己を捉えることができるようになる反面、発達の個人差も大きく、自己に肯定的な意識を持てない劣等感を持ちやすくなる時期に入っていきます。そして徐々に、親等の価値観や規範等から作られてきた自分から、自分で自分を作り上げる「自我の形成」を果たそうと成長していきます。自分の理想の人物・人生を想像し、親から心理的離乳を起こしその過程で反抗したり、友人関係や性関係を深めようと成長していきます。
 
複雑な思春期の心の反応は、成長の過程において正常な反応です。しかし、いじめや不登校、自殺等とも関連し、また、性感染症・人工妊娠中絶、出会い系サイト、性被害加害等にも関連することが多々あります。自己肯定感が低下する思春期のトラブルを予防するためにも、小学低学年までに家庭や学校、周囲の大人が愛情たっぷりに、思春期前の自己肯定感の水準を高めておくことが重要です。
 
また、思春期の子どもたちの約95%は、思春期自体がどのようなものか知らず、自分が思春期であるとの認識がありません。ここには学校教育に「心の健康教育」がまだまだ浸透していない現状も関係しているかもしれません。
 
思春期の「心の健康教育」で、思春期の複雑な心の反応は正常な反応であると肯定し、思春期は終わりが来ることを伝え、思春期の自分を客観的にとらえ乗り越えるストレスマネージメントを伝えていくと、子どもたちの心はとても楽になるようです。「心の健康教育」後のアンケートでは、約4%から「今日死ななくてよいとわかってよかった」と思春期と自殺が直結していることを示唆する感想がでてきます。また「自分や友達の不安定な気持ちは思春期が原因と知ったら、人づきあいが楽になった」「クラスの雰囲気が好くなった」等のコミュニケーション能力にも影響を与えるようです。
 
現在日本では、ゲーム機器の発達や人付き合いが苦手・面倒な若者が増加しているためか、若者の性経験率が激減しています。その反面、自己肯定感が低く、淋しい・誰かに認めてほしい等の理由から性問題を繰り返している若者もおり、二極化している面もあります。これらの性問題や将来の少子化予防のためにも、思春期の「心の健康教育」は大変重要なものではないでしょうか。
 
全ての子どもたちが人生に幸せを感じることができるよう心から祈りながら、思春期の「心の健康教育」を普及していきたいと考えています。
 
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