東京医療保健大学
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ヘルスケアコラム

AI時代の到来か?

東が丘・立川看護学部 看護学科
高木 晴良
今年の5月ごろ、14歳の藤井4段がプロデビューから連勝し続けていたことが、将棋界で明るいニュースとして大きく取り上げられました。しかし一方では、現役の将棋界トップである佐藤名人が、人工知能(AI)の将棋ソフト「ポナンザ」に連敗したというニュースも流されました。さらに、奇しくも同じころ、囲碁の世界で「世界最強」と称されていた柯潔(カケツ)九段が、AIの「アルファ碁」に3連敗というニュースも流れてきました。ボードゲームの世界では、ちょうど20年前の1997年5月にIBMのスーパーコンピュータ「ディープブルー」が、チェスの世界チャンピオンを破っていましたが、将棋や囲碁のような複雑なゲームでは、人間の方がまだまだ優位であると考えられていたので、「とうとう、AIが人間の知能を超えた」と大きな話題になった訳です。
 
AIと言えば、H.I.S.の始めたロボットホテル「変なホテル」も話題になりました。このホテルは、AIを搭載した恐竜ロボットが接客するということで話題を集め、集客力も高いため、全国に広がりつつあります。ホテルの接客のように、人間味が必要とされるような環境でもAIによる対応が可能になってきているということかもしれません。
このような状況から、「将来的に、多くの仕事がAIに奪われるのでは」という心配をする人が増えてきました。例えば、オックスフォード大学の論文によれば、「今後10~20年程度で、米国の総雇用者の約47%の仕事が自動化されるリスクが高い」とさえ報告されています。
 
元々、コンピュータが得意な処理は、情報を大量に蓄積したデータベースと、センサーで入力した情報を照らし合わせて、最適な対応をすることでした。例えば、デジタルカメラに搭載されたAIが、撮影時の環境に合わせて、いつでも最適な写真が撮れるように処理することをイメージすると分かりやすいと思います。昨年、東大医科研の人工知能「Watson」が、どの医師も診断できなかった特殊な白血病を、患者のゲノム情報を2000万件の論文データベースに照らし合わせることで、約10分で正確に診断したことが話題になりましたが、これも情報の適合処理ということでは、実はAIの得意な分野と言えます。
 
逆にコンピュータが不得意なのは、データベースに蓄積されていない状況に対して、考えられる最適な対応をすることであり、人間が「知恵」と呼ぶ処理だと考えられていました。しかし、囲碁AIの「アルファ碁」では、人間が知識を蓄積していくように、ディープラーニングと呼ばれる自己学習をさせることで、人間の持つ「知恵」に1歩近付いたと言われています。
 
そのため、今後はMRIやCTの画像等を大量にデータベース化し、AIに自己学習させることで、人間より早くて、正確な診断ができるのではないかと期待されています。
もしかすると将来は、体調が悪くなり病院に行くと、自分の好きなアニメのキャラクタなどを選択することで、AIに問診を行ってもらうことが可能になるかもしれません。診察室に入って、VR(仮想現実)で目の前にいる「金田一少年」に詳しく問診をされた後、「じっちゃんの名に懸けて、あなたは〇〇です。」と診断名を告げられるような時代が来るのでしょうか?
 
正確さが重要な診断場面とは違い、看護の世界では、AIが発達しても取って代わることのできにくい、暖かな人間味が重要です。例えば、AIが患者さんと言葉を交わさなくても気持ちを汲み取れるようになるまでは、まだ年月が必要でしょう。これからも、「AIを搭載した人気俳優型アンドロイドより、生身の人間の「あなた」に身の回りの生活援助をしてもらいたい」と思われるような素敵な看護師を育てていけたらと思っています。
 
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