東京医療保健大学
Menu

ヘルスケアコラム

生き方を考えるアドバンス・ケア・プランニング

医療保健学部 看護学科
櫻井 智穂子

 アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning: ACP)ってご存知ですか?これは、“もしも”の場合…自分が大きな病気や事故などで意識が戻らなくなり、自分の意思で何かを決定することができなくなった場合に備えて、健康なうちに延命治療やその他の受けたい医療・受けたくない医療などについて決定するプロセスです。これは、一人で決定するのではありません。医療など専門的な知識を持つファシリテーターが先導し、その人が意思決定能力を失ってしまったときに代わりに決定してくれるご家族や友人などの近親者と一緒に、話し合いを繰り返して決めていくものです。
 アドバンス・ケア・プランニングの始まりは、アメリカにあります。1990年代に、将来、自分の判断能力が失われた場合を想定し、行われる医療行為の意向について事前に意思表示をする、それを「事前指示書」という文書として示す方法が推進されていました。しかし、本人の意向が示されていても、半数が望まない治療を受けていたという現実がありました。そこで、ただ単に意向を聞いたり文書を作ったりするだけではなく、患者さんがケアを提供する家族や医療者と、療養やケアの目標、心配ごとなど包括的に話し合うプロセスを重視した意思決定の重要性が広まりました。
 日本では、かつては医師の勧めるままに治療を受ける“お任せ医療”が一般的でした。しかし、厚生労働省が平成25年に行った調査によりますと、人生の最終段階における医療について家族と話し合ったことがある人々の割合は半数近くあり、あらかじめ事前指示書を作成しておくことについては約7割が賛成しています。このように、我が国でも、人生の最期に受ける医療を自分の意思で選ぶことへの関心が高まりつつあることがわかります。
 最近、書店を覘きますと、まだ元気なうちに自分が亡くなるときのことを想定し、後に残るご家族などのたいせつな人に伝えておきたい気持ちや考えを書き残す「エンディングノート」が数多く並んでいます。しかし、主として、ご本人が亡くなった後のご葬儀や相続についての事柄を書くことが多く、生命があるあいだの治療や療養に関する内容を書き記すスペースは少ない傾向にあります。病院によっては、入院したときに、心臓あるいは呼吸が停止した場合に心肺蘇生をしてもらいたいかどうかを確認するところもあります。
自分が亡くなるそのときまでどんなふうに過ごしたいか、どのように人生を全うしたいか、そのような重要なものごとについて決定し、実現に繋げるためには、初めに自分が何をたいせつにして生きてきたのか、自分自身の考えをよく知ること、そして、それを身近な人々に伝えて理解してもらい、主治医など医療者にも伝えることが必要です。もし何かのきかっけで意思が変わった場合は変更や修正をし、そのことをまた周囲の人々に知らせる。この繰り返しのプロセスが重要です。アドバンス・ケア・プランニングは、医療を受けるご本人だけではなく、ゆくゆくはご本人に代わって医療を選ぶ立場となるご家族が、ご本人の希望を反映した決定を行うための助けにもなるのです。
<参考文献>
阿部泰之・木澤義之:アドバンス・ケア・プランニングと臨床倫理.看護実践にいかすエンド・オブ・ライフケア(長江弘子編集),38-44,日本看護協会出版会,2014.

 
 
このページの先頭へ