東京医療保健大学
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ヘルスケアコラム

看護の“こころ”と“スキル”

東が丘看護学部 看護学科
髙橋 智子

優れた看護には対象である人の持つ力を引き出し、よりよい方向へと変化させる力がある。そして、このような力が働くときには、看護師の対象への関心や配慮といった“こころ”と高度な実践力である“スキル”が存在しているように思う。
一般的にスキルとは、技術や技能など訓練や学習によって培われた高度な能力のことをいう。看護のスキルと言われて想像しやすいのは、採血や注射などの技術だろう。しかし、看護の“スキル”には食事介助や清潔ケアなどを対象に合わせて実践する技術やコミュニケーション能力なども含まれる。そして、このスキルは看護師の五感を通して発揮されることが多い。

看護師が看護の“こころ”と“スキル”を併せ持ちケアすることで効果的なケアへと繋がる。次の事例はその一例である。
糖尿病の薬を自己判断で中断し、意識障害を起こして入院した40代の患者さんがいた。看護師はその患者さんに対し「どんな人なのか気になる」と語り、彼自身が今の状況をどのように受けとめているのかに関心を寄せていた。そして、足浴のケアを通じて、普段の生活を何気なく聞き、その人の意欲を低下させないよう言葉を選びながら「足の状態って普段なかなか見ないと思うけど…最悪傷ついても気がつかないこともあるので」とセルフケアをする大切さを伝えた。すると患者さんは身を乗り出して自らの足を見つめ、看護師に質問するなど自身に関心を向けはじめた。
この事例において患者さんの反応に変化が見られたのは、看護師が「患者」という枠ではなく、一人の人間として「その人となり」を尊重する姿勢でかかわると同時に、巧なコミュニケーション能力を駆使して、今の患者さんの状況に合った方法で助言したからではないかと思う。

医療の高度化や疾病の複雑化などに伴い、医療における環境は目まぐるしく変化している。看護においてもケアの分業化が進み、1人ひとりの患者さんとかかわれる時間も限られている。近年では、脈拍や血圧などを測定する際、看護師が機械の数値を確認するだけで患者さんに触れなくなったという話もよく耳にする。
しかし、どんなに医療が進んでも、人は病になる不安や恐怖を抱いている。病を抱えている人が何を必要としているかを察し、その人が持っている力を引き出し、その人らしい生活を支えることが看護には求められているのではないかと思う。そして、これに応えるためには対象である人への関心や配慮、命を守る責任感といった看護の“こころ”と、自身の五感を研ぎ澄まして見聞きし、必要なケアを実践する“スキル”が必要になる。

では、看護の“こころ”と“スキル”はどのように育まれるのか。それは看護の対象の存在によるところが大きいように思う。臨地実習において、学生は受け持ちの患者さんに対して何かできないか、苦痛を緩和できないかと思い悩むことが多々ある。また、自己の行ったケアの未熟さに申し訳なさを感じることもある。このように、1人ひとりの患者さんを大切にし、よいケアをしたいという思いで自己研鑽し続けることが看護の“こころ”と“スキル”を培うのである。
テクノロジーの時代で医療の分業化や効率化が重視されつつある。このような時代だからこそ、対象者へ関心を寄せる“こころ”や身体を用いて見る、聞くといった“スキル”を大事にしていきたいと思う。

教員データベース:髙橋 智子⇒

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