東京医療保健大学
Menu

ヘルスケアコラム

生と死に向き合う透析医療と食のつながり

医療保健学部 医療栄養学科
北島 幸枝

透析患者は、感染症罹患によって重症化・予後不良のリスクが高く、透析医療そのものが血液媒介感染症のリスクを伴うため、透析施設における感染対策は徹底されていましたが、COVID-19感染拡大以降、標準的感染予防策とともに、飛沫感染と接触感染の予防策を講じています。

外来透析施設は、COVID-19感染疑いもしくは軽症の透析患者の透析を施行する必要があります。そのため、各施設では、迅速に対応できるよう個室透析の準備やデモンストレーションを行うなど準備をし、日常業務での個人防護具着用、聴診器や体温計等の患者専用化、透析終了後の環境整備(消毒)の徹底などをおこない、透析患者同士の感染や医療従事者・介護スタッフ等とその家族の感染防止に努めています。管理栄養士も透析患者への栄養指導時には同様な感染対策をおこなっています。

透析患者の新型コロナウイルス感染者は108名(日本透析医会・日本透析医学会・日本腎臓学会 新型コロナウイルス感染対策合同委員会6月12日報告)ですが、クラスター発生の報告もなく感染対策に尽力してきた結果です。透析施設の医療従事者を称えるとともに、これからも各施設「ONE TEAM」で十分な感染対策に取り組んでいただきたいです。

さて、わたしは、長く維持透析施設での透析医療に携わっていますが、いまでも透析患者さんから多くの学びを得ています。透析という治療特性上、患者さんとは長くお付き合いするため、ときにはおじいちゃんであったり、ときには母親であったり、友達であったり、患者と管理栄養士という立場を越えて話をするようになります。

腎代替療法を選択するにあたり、腎移植以外の透析療法の選択は、「死」に至るまで透析という血液浄化療法を続けることを意味し、患者さんは、透析導入時そして導入後も「生」と「死」が隣り合う人生となります。また、在宅(家庭)透析の普及も進んでいますが、ほとんどの患者さんは透析施設での平均週3回、1回4~5時間の通院透析であり、水分制限や食事管理も伴います。さまざまな制限がある治療生活は、とても苦しいです。

誰しもが持つ食の欲は、透析患者さんも同じです。しかし、制限された生活において、食に対する喪失感を抱いたり無関心となったりする患者さんを多く経験します。生と死に向き合う生活は、精神的問題をより大きくし栄養状態にも影響していきます。誰かがその苦しさに耳を傾け受け止める必要があり、その役目は管理栄養士にもあると考えます。

患者さんの生活背景は多様で地域性もあります。それまでの人生も異なります。栄養回診をする際は、患者さんの背景を十分に知るために精一杯患者さんの話しを聞くことから始めることが大切です。その方がどうしたいのか、何が一番必要か、を考えた心のこもった栄養指導には、相手を知る、コミュニケーションをとることが重要です。血液検査等の改善だけが、栄養指導ではありません。

維持透析施設の管理栄養士は、患者さんにとって食べる楽しみやよろこびを共有できる者として、さらに安心できる存在であってほしいと願います。

教員データベース:北島 幸枝⇒

このページの先頭へ