東京医療保健大学
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ヘルスケアコラム

看護師がしっかりと休むためには?

医療保健学部 医療情報学科
駒崎 俊剛

仕事が終わってもお客さんの様子や機械の動作が心配になり,なかなか休んだ気になれないという経験はありませんか。しっかりと休むことは,良質のサービスを提供し,患者・医療者の安全(*1)を確保し,働き続けるために必要なことです。そのためには,休み(休憩・休暇・休息)の時間の確保や人員配置などの勤務体制の整備に加えて,「心配=Caring」を調整する仕組みの整備が大切です。

まず,Caringをもう少し詳しくみてみます。ノディングス(*3)は,CaringをCaring about(「かかわり」や「気にかけている」)とCaring for(「世話」)の側面があることを述べています。これを援用して,Caringのうち,かかわりのある対象を気にかけていることを「関心」,実際にかかわりのある対象へ働きかけることを「関与」と呼ぶことにします。

それでは,看護師の休みの時間に同僚や患者さんへの関心と関与は,どのようにあらわれているのでしょうか。2011年から2014年にかけて,20名の看護師の協力を得て,制度上の休みの時間において,看護師としてかかわっている時間とその内容について記録してもらい,その後インタビューを行いました。

その結果,先行研究(*2,4)と同様に休みの時間に同僚や患者のことが気になっていること,つまり関心が続いていること,それに加えて,職場の同僚に連絡し,患者さんや同僚の様子を確かめる,職場内にいれば実際に同僚への対応をしている,つまり関与していることが分かりました。

ある事例を簡略化し,紹介します。ある患者さんが7日間入院します。入院日から2日目にある看護師が担当しました。2日目・3日目は日勤帯で担当し,4日目は夜勤帯で担当し,連続勤務にならないように5日目は休みを取りました。この5日目に病棟へ連絡をして様子を確かめます。そして,6日目に出勤したときには,この患者さんは入院7日目になるので,退院の準備が始まります。

この例にみられるように,看護師の患者さんへの関与は,細分化されています。同時に,専門職としての責任感から生じる患者さんへの関心は,勤務時間が終わっても持続し続けます。そのため,関与できる時間(勤務時間)と関心を持ち続ける時間(勤務時間と休みの時間)が一致しなくなります。そこで,この不一致をひとりの看護師のなかで解決しようとすれば,休みの時間に患者さんや同僚への関与することになります。

このような患者さんや同僚への勤務時間を超えて関心を持ち続け,関与したいという気持ちの側面にも対処する仕組み作りが,しっかりと休みをとることにつながるのではないでしょうか。この課題に対して情報技術をどのように活用できるのか,研究を続けていきたいと思います。

引用文献

*1 金子さゆり(2007).病棟看護師の超過勤務および休憩時間と患者安全との関係.『医療の質・安全学会誌』.2-4.358-364.調査対象者は,1038名(そのうち有効回答,n=792)に対して7日間の自記式調査が行われた。
*2 丸亀朱美(2012).働き続けられる 職場を目指す12時間2交代制 勤務の導入.『看護展望』.37-4.0372−0375.
*3 ノディングス,N.(2008/1997).『ケアリング 倫理と道徳の教育−女性の観点から』.立川善康,林泰成,清水重樹,宮崎宏志,新茂之(訳).京都:晃洋書房.(Noddings,N.(1984).Caring : a feminine approach to ethics & moral education.University of California Press : California.)
*4 菅原晴美,経広円佳,池上栄子(2009).二交代制の導入 実践とアンケート調査からみたスタッフの意識変化.『津山中央病院医学雑誌』,23-1.105-108.

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