東京医療保健大学
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ヘルスケアコラム

老嚥とオーラル・フレイル

医療保健学部 医療栄養学科
小城 明子
 ゴックンと飲み込むことを「嚥下」といいます。最近、新聞紙面上でも高齢者の健康に関する記事の中で、よく見かける言葉となりました。嚥下の「嚥」の字は、くちへんに燕(ツバメ)と書くように、ツバメの子が餌を丸呑みする様子から作られた漢字といわれています。一方、英語で“飲み込む”ことをswallowといいます。これは動詞ですが、swallowは名詞ではツバメ。語源は違うそうですが、おもしろい偶然です。
 さて、高齢者の健康といえば、近年、高齢者の医療費高騰が問題として挙げられています。人は加齢により身体機能を支える恒常性を維持することが難しくなってきます。これは生理的現象ですが、この加齢変化の他に不活発、低栄養、疾病などが加わると、その生理的変化は加速度的に進行し、健康障害をきたしやすくなります。この状態をフレイル(虚弱)と言います。この言葉も、最近よく紙面上で見かけますが、これこそが高齢者の医療費高騰の根源です。
 フレイルの一要因である低栄養の多くは、オーラル・フレイルや老嚥から始まります。オーラル・フレイルとは、“歯・口の機能の虚弱”です。歯の喪失や話す機会の減少から始まります。老嚥は、“加齢による(生理的変化としての)嚥下機能低下”で、いわゆる嚥下のフレイルのことです。老嚥には、嚥下に関わる筋肉の筋肉量の減少および筋力の低下のほか、口腔乾燥や反射機能の低下なども関係しています。これらの加齢変化がみられると、食べづらい食品がでてきたり食べこぼしが多くなったりし、食欲の低下や摂取する食品の偏りに繋がっていきます。そして、さらなる筋肉量の減少・筋力の低下を招き、噛む力の低下や舌の動きの悪化が見られるようになります。食べる量が少なくなり、栄養状態の低下および加齢変化以上の摂食に関する筋肉量の減少・筋力の低下をきたし、やがて全身性のフレイルへと陥ります。
 このオーラル・フレイルや老嚥の段階は、まだ摂食嚥下障害ではありません。ですが、この段階で、摂食に関わる機能の低下に対しアプローチをすることで、フレイルへの進行をある程度抑えることが可能となります。アプローチの視点として、歯科的な介入はもちろんですが、栄養学的な介入も重要です。口腔の変化に伴う食生活の変化については様々な報告がありますが、エネルギー摂取量の減少および糖質の摂取割合の増加、食物繊維、ビタミン・ミネラル類の摂取量の減少、たんぱく質源の肉類の摂取の減少などが挙げられています。これらの偏りを未然に防げるよう、摂食機能にマッチした食事から必要な栄養をしっかりと摂取すること、これがフレイル予防さらには医療費高騰を抑えることにつながります。とはいえ、加齢による生理的変化に対して、早期から積極的にアプローチできるケースはまだ少ないのが現状です。早い段階で適切な対策が取れるよう、周囲の気づきや支援が必要です。
 それではどのような食事がお勧めでしょうか。フレイル予防に是非活用したい農林水産省のスマイルケア食をご紹介しましょう。スマイルケア食は、高齢者に限らず、摂食機能や栄養に関し問題がある方に向けたお食事です。栄養補給を必要とする方向けの食品、噛むことに問題がある方向けの食品、飲み込むことに問題がある方向けの食品の3つに分けられ、該当食品にはそれぞれマークが付けられています。残念ながら、この制度は整ったばかりで、栄養補給を必要とする方向けの食品以外は、市場に商品が出回るのはまだ先のようです。もし店頭で見かけるようになったら、このコラムを思い出してください。
 
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