東京医療保健大学
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ヘルスケアコラム

皮膚の常在細菌について

大学院 医療保健学研究科
吉田 理香
健康を保つためには常在細菌が重要であり、腸内細菌のバランスを整えることが注目され、腸内フローラという言葉も一般的に良く使用されるようになりました。しかし、重要な常在細菌は腸内細菌だけでなく、皮膚にも常在細菌がいて私たちのストレスフルな外的刺激などから守ってくれています。皮膚は人体で最大の臓器ともいわれ、皮膚には多くの常在細菌があると言われていますが、その代表的なもの3つについて説明します。
 
一つ目は皮膚表面や毛穴に存在する表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)です。表皮ブドウ球菌は汗(アルカリ性)や皮脂を餌にグリセリンや脂肪酸を作り出します。脂肪酸は肌を弱酸性に保ち抗菌ペプチドを作り出すことで、黄色ブドウ球菌の増殖を防ぎます。表皮ブドウ球菌が出すグリセリンは、皮膚のバリア機能を保つ役割があります。
 
二つ目はアクネ桿菌( Propionibacterium acnes)です。この菌は嫌気性菌であり、酸素ある環境ではほとんど増殖できず、死滅してしまいます。そのため、酸素を嫌い毛穴や皮脂腺に存在し皮脂を餌にプロピオン酸や脂肪酸を作り出すことで皮膚表面を弱酸性に保ち、皮膚に付着する病原性の強い細菌の増殖を抑える役割を担っています。一般的にニキビの原因と言われていますが、増殖しなければニキビの原因菌になりません。しかし、皮脂の分泌量が増えたり、何かの異常で毛穴をふさいだりすると、アクネ桿菌が過剰に増殖し炎症を引き起こしてニキビになります。
 
三つ目は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)で、皮膚表面や毛穴に存在します。存在しているだけでは問題がありませんが、ブドウ球菌の中では病原性が高いため皮膚がアルカリ性に傾くと増殖して皮膚炎などを引き起こします。傷を受けた皮膚をそのままにしておくと化膿し悪化させてしまいます。
 
これら常在細菌は、それぞれ存在する菌のバランスが壊れたときに皮膚のトラブルに発展します。そのため、バランスを壊さないように常在細菌と上手に生活することと表皮ブドウ球菌を減らさないようにすることが大切です。表皮ブドウ球菌は角質層に存在しているため、無理に角質を落とすような行為をすると減ってしまします。例として、長時間の入浴、頻回の洗浄・洗顔、洗顔料・洗浄料の過剰使用などです。表皮ブドウ球菌を減らさないように保つことは、アルカリを好む病原性の強い黄色ブドウ球菌や真菌などの繁殖を防ぐことにつながり、皮膚のバリア機能を保つ意味でとても重要です。これから秋冬に向けて乾燥の時期に入ります。乾燥すると表皮ブドウ球菌が棲みにくく皮膚はアルカリ性に傾いてしまいます。皮膚常在細菌のバランスが壊れてしまわないように注意しましょう。
 
今回は皮膚の常在細菌についてでしたが、全身にはそれぞれの部位に特徴的な常在細菌が存在し、それぞれ定められた場所に存在してバランスを保ち成立しています。しかし、何らかの原因でこのバランスが崩れ本来の存在する 場所から別の場所へ侵入してしまうと重篤な感染症を引き起こす場合があります。常在細菌の研究は感染制御や免疫との関係においても重要性が増してきています。
 
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