東京医療保健大学
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ヘルスケアコラム

甘いけど、あまくない

医療保健学部 医療栄養学科
加藤 隆幸

体の中にはいくつかの「糸」がありますが、今回は第三の糸に関するお話です。第一の糸は、アミノ酸が重合してできたタンパク質です。この糸は、物を作ったり壊したり運んだり、情報を伝えたり、構造体になったりと種々の生命現象になくてはならない存在です。第二の糸は、ヌクレオチドが重合した核酸で、DNAはこちらにあたります。生体はDNAのヌクレオチド配列を遺伝情報として利用しています。そして、第三の糸として糖鎖があります。

糖と聞くと、紅茶やコーヒーに入れるお砂糖や、デンプンをイメージするかもしれません。糖はブドウ糖や果糖などの単糖類と、それらが重合してできる多糖類に大別できます。お砂糖は二糖類で、ブドウ糖と果糖から成ります。これら小さい分子は甘いのですが、ブドウ糖がたくさん重合した多糖類のデンプンは甘さを感じません。単糖類には甘いものが多いですが、重合によって甘さは変化したり失われたりします。

糖鎖とは、多くの生命現象に関わる分子で、単糖類が幾つか重合したもののことです。その重合数は、数個や10個程度のものもあれば、数十個数百個またはそれ以上に及ぶものもあります。糖鎖は単独で存在するもの以外に、タンパク質や脂質に結合しているものも多くあります。糖鎖が結合することで、その機能が制御されたり、別の分子として働き自体が変わったりします。タンパク質が細胞外で様々な攻撃を受けるのを糖鎖の結合で防いだり、細胞表面に糖鎖を持つことで他の細胞との相互作用を調節したりします。また病気との関わりも知られており、インフルエンザの感染拡大には糖鎖が関与します。そこに効くのがタミフルやリレンザです。

糖鎖を持つ分子は同じものがない、と言えるほど糖鎖は千状万態です。同じアミノ酸やヌクレオチドが2つ重合してできる分子は基本的に1種類です。加えて、タンパク質はアミノ酸が重合して糸状になっていますが、ゆらゆらフラフラしているのではなく、その3次元構造は正確に決まっているものがほとんどです。ある毛糸は必ずセーターになり、別のある毛糸はマフラーに、と言った具合にです。このように、1種類のタンパク質が取り得る形態は非常に限られています。一方、ブドウ糖同士を結合させる方法は100種類以上考えられ、生体内で起こり得るものだけでも10種類程度はあります。種類や結合数が増えると、できる糖鎖の種類は膨大な数になります。また、このタンパク質やこの脂質にはこの糖鎖、と決まっているのではなく、同じタンパク質や脂質でも結合している糖鎖はバラエティーに富みます。1つの分子に結合する糖鎖の数も1本とは限らず、100本以上の糖鎖を持つ分子も知られています。更に、糖鎖の3次元構造は正確には定まらず、常に変化しています。

図の構造はこのコラムに出てきた分子ですが、お分かりでしょうか。ブドウ糖とお答えの方は化学通でしょう。α-D-glucopyranoseとお答えの方は化学者でしょう。しかし、イス型配座であることを言い表せていないのが難点です。糖はただの甘いエネルギー源という単純なものではない、とご賢察のことでしょう。まだまだ糖にはユニークなことがたくさんあります。それはまた別の機会にお話したいと思います。

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